日本酒をECサイトで販売している事業者です。海外で日本酒人気が高まっていることもあり、「越境EC」の制作を検討しています。現在も「一般酒類小売業免許」と「通信販売酒類小売業免許」は取得しているのですが、他に必要となる免許や届出はありますか?
結論とすると、越境ECなどを用いて酒類を輸出するためには、「輸出酒類卸売業免許」が必要です。越境ECの場合、以前は一般酒類小売業免許でも海外の消費者に販売できたのですが、2022年からは輸出酒類卸売業免許が必要になっています。
輸出酒類卸売業免許の取得にあたって注意すべきことを解説するので、ぜひ参考にしてみてください。
目次
輸出酒類卸売業免許とは
輸出酒類卸売業免許は、自社で酒類を輸出し、海外の業者に卸売することができる免許です。(日本国内で他社に販売してから輸出する場合は、他の免許が必要)
手引きには「輸出入酒類卸売業免許」と表記されていますが、実際には「輸出」と「輸入」とは別の免許になるため、取得時には注意しなければなりません。
輸出酒類卸売業免許で販売できるお酒の種類
「輸出酒類卸売業免許」は原則として、特定の販売予定のお酒を輸出できるようになる免許です。
たとえば輸出する予定のお酒が”日本酒”だけであるなら、原則として「自己が輸出する清酒の卸売」という免許になります。
ただし、最近では全ての酒類を輸出できるよう「自己が輸出する酒類の卸売」という免許になることが多いです。
この免許内容については、各税務署によって対応が異なります。
もし「自己が輸出する清酒の卸売」などと販売酒類が限定された場合、その限定されたお酒以外を販売するためには、税務署に「条件緩和の申し出」をして取扱い範囲を広げなければならないため注意してください。
輸出酒類卸売業免許の要件
輸出酒類卸売業免許を取得するためには、次の要件をクリアしなければなりません。
- 人的な要件
- 場所的な要件
- 経営基礎要件(財務的な要件・申請者の知識及び能力に関する要件)
それぞれの要件について具体的に解説します。
人的な要件
人的な要件としては、過去に法律違反をしていないことや、税金の滞納処分を受けていないことなどが求められます。
場所的な要件
輸出酒類卸売業免許を取得するためには、受注行為などの事務手続きを行える事務所が必要です。
また、正当な理由がないのに取締り上不適当と認められる場所に販売場を設けようとしていないことも場所的な要件とされています。
経営基礎要件(財務的な要件・申請者の知識及び能力に関する要件)
経営基礎要件は、「財務的な要件」と「申請者の知識及び能力に関する要件」に大別されます。
財務的な要件としては、次の要素を満たしていなくてはなりません。
- 税金の滞納がないこと
- 過去3事業年度の全ての決算で資本金等の20%以上の損失がないこと(法人の場合)
- 最終事業年度の決算で繰越損失が資本等の額を上回っていないこと(法人の場合)
また、申請者の知識及び能力については、「経験その他から判断し、適正に酒類の卸売業を経営するに十分な知識及び能力を有すると認められる者又はこれらの者が主体となって組織する法人」を満たす必要があります。
なお、その他の酒販免許と異なり、酒類販売の経験は問われません。ただし、税務署によっては、酒類販売の経験がない場合は酒類販売管理研修の受講を指示される場合があります。
免許申請の流れ
まずは先述した免許要件をクリアしているか、必要書類を用意できるのか確認をしましょう。申請が可能であれば、必要書類を収集し申請書類を作成します。
申請書類を作成したら、税務署に提出してください。2か月かけて審査されます。なお、審査途中で申請内容を確認されたり、追加書類を依頼されたりすることがあります。補正期間は審査が止まってしまいますので、指示されたらすぐに対応しましょう。
また、税務署によっては現地確認を行うことがあります。これは申請書の内容通りになっているかチェックしたり、申請書では明確にわからなかった箇所の確認をしたりするためです。また申請者に対し、今回の申請の経緯などを確認することもあります。
審査が終わり、「交付日の調整の後、免許通知書が交付されます。酒類販売業免許の申請の審査をする酒類指導官は、全ての都道府県に常駐しているわけではありません。たとえば東京の場合、神田・品川・浅草・豊島・立川の5か所に酒類指導官の部署があり、毎週特定の曜日に担当者が巡回しています。免許通知書の交付日は、その巡回日に合わせることが多いことも覚えておきましょう。
申請書の記載事項
申請書の記載事項は次のとおりです。
- 酒類販売業免許申請書
- 次葉1(販売場の敷地の状況)
- 次葉2(建物等の配置図)
- 次葉3(事業の概要)
- 次葉4(収支の見込み)
- 次葉5(所要資金の額及び調達方法)
- 次葉6(酒類の販売管理の方法)
それぞれ詳しく見ていきましょう。
酒類販売業免許申請書
申請者の住所、名称、申請場所の地番と住居表示、申請する免許の内容等を記載します。
申請する販売業免許等の種類の欄には「輸出酒類卸売業免許」と記載しますが、その他の免許も同時に申請する場合は、その免許の種類も並べて記載してください。
販売しようとする酒類の品目の範囲及び販売方法には「自己が輸出する酒類の卸売」と記載しますが、その他の免許も同時に申請する場合は、その免許の内容も記載します。
なお、複数免許を申請する時は、販売方法の表現が税務署によって多少異なるので、あらかじめ税務署に相談することをおすすめします。また、酒類販売管理者の選任の欄は、酒類の小売を行わない場合は記載不要です。
次葉1(販売場の敷地の状況)
申請場所の位置を図示します。酒類販売業免許は地番を指定して免許されるため、申請する販売場の建物がどこの地番の上に建っているのか分かるようにしましょう。
また、申請場所が建物の「どの位置」にあるのか分かるようにしなければなりません。たとえば「○○ビル202号室」であれば、202号室が2階のどの位置なのかを図示します。そして「どの部分が事務所」「どの部分が倉庫」なのかも図示する必要があります。これは法務局で建物図面を取得するとわかりやすいです。
次葉2(建物等の配置図)
建物等の配置図とは、いわゆるレイアウト図です。入口・机・パソコン・複合機の位置などが分かるように記載します。申請場所と倉庫が同じ場所にあれば、倉庫などについても記載します。
なお、この場所で小売免許も取得する場合、「酒類販売管理者の標識の掲示位置」も図示しなければなりません。
また、販売場と別の場所に倉庫がある場合、免許取得後に倉庫の設置について「酒類蔵置所の設置の届」の提出が必要です。
次葉3(事業の概要)
次葉2に記した配置図の内容を、具体的な数量にして記載します。敷地や事務所の面積・机やパソコンの数量・従業員の人数を記載してください。
次葉4(収支の見込み)
酒類の「仕入先」と「販売先」の名称・所在地を記載します。
輸出卸の場合、「日本の仕入先」と「海外の販売先」の取引承諾書を添付するため、その取引先を記載してください。取引承諾書を添付していない取引先を記載すると、その取引先の承諾書も添付するように指示されることがあります。越境ECの場合は、海外の一般消費者になりますので、海外の取引承諾書は不要です。
収支見積としては、「酒類の売上」「仕入金額」「その他の収支」を記載します。収支は黒字になるように記載しましょう。
また、酒類の販売見込み数量の算出根拠の記載も必要です。現在は提出する収支表が簡略化されましたが、”何のお酒”を”何リットル”売る予定なのか、審査する税務署職員に算出根拠を聞かれても答えられるようにしておきましょう。
たとえば販売予定の内訳としては「1本3000円の720ミリリットルの清酒を1年間に100本輸出する」「焼酎は何本」「ビールは何本」と数字を積み上げ、最終的な販売数量見込を算出しましょう。
なお、この数字はあくまでも見込みであるため、免許後に算出数量通りに販売できなくても問題ありません。
なお、複数の免許を同時に申請する場合は、それぞれの販売数量を算出して合計金額を記載します。たとえば「一般酒類小売業免許」と「輸出酒類卸売業免許」を同時に申請する場合は、税務署の担当者によってはそれぞれの収支表を提出するように指示されることもありますので、それぞれ「一般小売ではいくら」「輸出酒類卸売ではいくら」と算出し、その合計額を記載しましょう。
次葉5(所要資金の額及び調達方法)
次葉4で算出した販売数量を基に、最初の仕入に必要な金額を算出します。また新たに設備の購入が必要であれば、その設備代金も記載してください。
そして「最初の仕入れ代金」と「設備費用を賄える所要資金」がいくらあるのか記載します。
次葉6(酒類の販売管理の方法)
小売販売をしない場合「酒類の販売管理の方法」の提出は不要です。
申請書の添付書類
申請書の添付書類は、次のように多岐にわたります。
必要書類 | 概要 |
---|---|
酒類販売業免許の免許要件誓約書 | 人的要件・経営基礎要件・需給調整要件、その他の要件について誓約 |
住民票の写し | 個人事業として申請する際に必要 ※現在は、税務署への提出は不要になりましたが、住所の確認のために用意した方がいいです。 |
定款の写し (法人の場合) |
・事業目的には「酒類販売業」など酒類を販売することがわかる項目が必要 ・「食品、飲料及び酒類の販売」も可 ・「食品の販売」だけだと認められないことが多い ※法人の登記簿は税務署側で確認できるため提出は不要 |
契約書等の写し | ・土地、建物等が賃貸借の場合は賃貸借契約書等の写し ・建物が未建築の場合は請負契約書等の写し ・農地の場合は農地転用許可に係る証明書等の写し |
土地及び建物の登記事項証明書 | 全部事項証明書に限る 建物が複数の土地にかかる場合はそのすべての土地の証明書が必要 |
財務諸表 | 経営基礎要件を確認するための書類
【法人の場合】 【個人事業主の場合】 |
地方税の納税証明書 | 本店所在地のある「都道府県税事務所」と「市区町村」の2か所で取得(東京23区の法人は都税事務所のみ)。 証明の内容は、未納がないことと2年以内に滞納処分を受けたことがないことの証明です。 2年以内に移転・転居があった場合は、移転・転居前の自治体からの証明書も必要。 |
申請者の履歴書 | 法人の場合:役員全員分(謄本に記載された監査役も含む) それぞれの生年月日、住所、職歴(勤務した会社名、業種、担当業務内容)を記載 学歴や顔写真は不要 酒類販売経験や経営経験を確認するため、これまでの職務内容を詳細に記載 |
酒類販売管理研修の受講証のコピー | 卸売業免許では酒類販売管理者を選任しないため本来は添付不要 ただし申請者(法人の場合は役員)に酒類販売の経験がない場合、研修の受講を指示されることがある 受講を終えるまで免許されないこともあるため、事前に受講しておいたほうがスムーズ |
所要資金の確認書類 | 銀行通帳の表紙や1枚めくった名義のわかるページと申請時の残高がわかるページのコピー。 残高証明書でも事業資金が融資による場合は、借入をする金融機関の融資証明書等が必要 |
取引承諾書 | あくまでも予定 詳細な取引条件などが記載されている必要はなく、取引予定が分かる書類 輸出酒類卸売業免許の申請では「日本の仕入先」と「海外の卸売先」の取引承諾書が必要 日本の仕入先は「酒類製造免許」か「国内で卸売ができる免許」が必要(小売店からは仕入れられない) 越境ECの場合は、海外の卸売先の取引承諾書は不要だが、越境ECのウェブサイトの画像が必要。 |
申請の概要 | 税務署担当者の審査を助け、スムーズに進めるために用意(必須ではない) 掲載情報は次のとおり ・申請する会社の概要 ・現在の事業内容 ・酒販免許を申請することになった経緯 ・仕入先との関係性 ・物流方法・倉庫など ・予定している酒類販売の事業内容 |
なお、「地方税の納税証明書」は通常の納税証明書とは異なるため、十分に注意してください。都道府県及び市区町村が発行する納税証明書で、申請者につき各種地方税について下記の両方が証明されたものが必要となります。
- 未納の税額がない旨
- 2年以内に滞納処分を受けたことがない旨
都道府県税事務所の場合は申請書に「酒類販売業免許申請用」と記載されているため、取得しやすいでしょう。しかし市区町村では窓口担当者が酒類販売業免許申請用の納税証明書を知らないことも多いため、まずは都道府県税事務所で証明書を取得し、その書式と同じものを市町村役場で交付してもらうといいでしょう。証明願の形式で作成したものに証明をする自治体もあります。
免許交付日の手続き
免許交付は、原則として税務署を訪問して手続きを行います。(コロナなどの影響で郵送で手続きすることもありますが、基本的には税務署での交付手続きします)
交付日の流れは税務署によっても異なりますが、まずは登録免許税9万円を納付し、免許通知書の交付を受け、免許取得後の注意事項などの説明を受けます。
税務署によっては交付式が行われ、税務署長から交付される場合もあるため、ラフ過ぎない服装で訪問するようにしてください。
輸出時の酒税について
原則、酒類には酒税が課せられます。
酒類を製造場から移出したときに課税されるため、酒造メーカーが納税しています。そのため通常は、酒造メーカーから仕入れるとき、酒税が課せられた価格で仕入れているのです。
ただし輸出目的で酒類を製造場から移出する場合は、例外として酒税が免除されます。詳しくは税理士に相談したり、下記のWebサイトを確認したりしてみてください。
申請手続きは行政書士へ依頼できる
輸出酒類卸売業免許の申請についても、行政書士に相談・依頼できます。
たとえば弊社の代行手数料は10万円(消費税別)で、免許がおりたときには登録免許税9万円の支払いが必要です。
ご相談いただく場合、まずはどのようにお酒を販売したいかお伝えください。その販売方法にあった免許と要件をお伝えしますので、要件をクリアできているか確認していきましょう。
要件を満たしており、取得申請をご依頼いただけるようでしたら、申込書をご記入いただきます。代行手数料をお振込み後、申請手続きを開始いたします。
この記事で紹介した必要書類が揃ってから1週間以内に申請書を作成し、税務署に申請します。税務署に申請してから免許がおりるまで約2か月かかり、申請内容や時期によってはそれ以上の期間がかかることもあるため、スケジュールには余裕を持ってご相談いただくことをおすすめいたします。