クラフトビール醸造所を開業するために必要な免許|発泡酒免許とビール免許の違いを行政書士が解説
最終更新日:2026年3月13日 初回公開日:2026年3月13日
クラフトビールの醸造所を開業するには、酒税法に基づく酒類製造業免許が必要です。しかし、「ビール免許」と「発泡酒免許」のどちらを取得すべきか、要件はどう違うのか、迷っている方も多いのではないでしょうか。
この記事では、クラフトビール醸造所の開業を検討している方に向けて、免許の種類・要件・審査のポイントを行政書士が実務経験をもとに解説します。
本記事は、行政書士・社会保険労務士(酒類製造業免許申請の実務経験16年、製造免許申請実績あり)が解説しています。
目次
- クラフトビール醸造所に必要な免許の種類
- ビール免許と発泡酒免許の違い
- 品目別の最低製造数量と難易度
- 酒類製造業免許の主な要件
- 申請から免許取得までの流れ
- 免許取得後に必要な手続き
- よくある質問
1. クラフトビール醸造所に必要な免許の種類
お酒を製造して販売するためには、酒類製造業免許(税務署長が付与)が必要です。酒類販売業免許(お酒を仕入れて販売するための免許)とは別の免許であり、要件も審査期間も異なります。
クラフトビール醸造所が取得する可能性がある製造免許は、主に以下の2種類です。
| 免許の種類 | 製造できるもの | 1年間の最低製造数量 |
|---|---|---|
| ビール製造業免許 | 麦芽・ホップ・水を主原料とするビール(副原料の使用割合が麦芽の5%未満) | 60キロリットル |
| 発泡酒製造業免許 | 麦芽または麦を原料の一部とする発泡性酒類(ビールの定義に該当しないもの) | 6キロリットル |
「クラフトビール」と呼ばれていても、酒税法上の区分では発泡酒として製造・販売されているものが大多数です。その理由は次のセクションで詳しく説明します。
2. ビール免許と発泡酒免許の違い
最低製造数量の壁
ビール製造業免許の最低製造数量は年間60キロリットルです。これは一般的な330mL缶に換算すると約18万本分に相当します。新規開業の小規模醸造所がいきなりこの数量を達成するのは、設備投資・販売体制の両面から非常に困難です。
一方、発泡酒製造業免許の最低製造数量は年間6キロリットル(330mL缶換算で約1万8千本)であり、小規模なブルワリーでも現実的に達成できる数量です。
このため、クラフトビール醸造所の多くは発泡酒免許でスタートし、製造規模が拡大した段階でビール免許の取得を検討するというのが一般的な流れです。
酒税法上の「ビール」の定義
2018年の酒税法改正により、ビールに使用できる副原料の範囲が大幅に拡大されました。それ以前は副原料が厳しく限定されていたため、フルーツや香辛料を加えたビールは「発泡酒」に分類されていました。改正後は、果実・香辛料・野菜など多様な副原料を使用してもビールとして製造できるようになっています。
ただし、副原料の使用割合が麦芽重量の5%を超える場合は発泡酒に分類されます。麦芽比率の低い製品や、独自の副原料を大量に使用するレシピでは、引き続き発泡酒免許が必要になるケースもあります。
酒税の税率の違い
酒税法上、ビールと発泡酒では税率が異なります(2026年現在、段階的な統一が進行中)。開業時の免許選択は、製造数量の現実性だけでなく、税率面も踏まえて検討することが重要です。
3. 品目別の最低製造数量と難易度
クラフトビール系以外の醸造免許も含め、主な品目の最低製造数量と申請難易度を整理します。
| 品目 | 最低製造数量(年間) | 申請難易度の目安 | 備考 |
|---|---|---|---|
| ビール | 60キロリットル | ★★★★★(非常に高い) | 小規模開業では数量達成が困難 |
| 清酒(日本酒) | 60キロリットル | ★★★★★(非常に高い) | 製造場の数量規制もあり難易度が高い |
| 連続式蒸留焼酎 | 60キロリットル | ★★★★★(非常に高い) | 大規模設備が必要 |
| 単式蒸留焼酎 | 10キロリットル | ★★★★☆(高い) | 本格焼酎・泡盛など |
| 発泡酒 | 6キロリットル | ★★★☆☆(中程度) | クラフトビール開業の現実的な選択肢 |
| 果実酒(ワイン) | 6キロリットル | ★★★☆☆(中程度) | ワイナリー・シードル等 |
| リキュール | 6キロリットル | ★★★☆☆(中程度) | 梅酒・果実系リキュール等 |
| ウイスキー・ブランデー | 6キロリットル | ★★★★☆(高い) | 熟成設備・期間が必要 |
| スピリッツ | 6キロリットル | ★★★☆☆(中程度) | クラフトジン・ウォッカ等 |
※難易度は最低製造数量・技術的要件・設備要件・審査の厳しさを総合的に評価したものです。
4. 酒類製造業免許の主な要件
酒類製造業免許は、酒類販売業免許と比べて要件が多く、審査が厳格です。主な要件は以下の4つです。
①人的要件・経営基礎要件
申請者(法人の場合は役員を含む)が以下の条件を満たしていることが必要です。
- 税金の滞納がないこと
- 申請前2年以内に滞納処分を受けていないこと
- 申請前1年以内に銀行取引停止処分を受けていないこと
- 直近の決算書で債務超過になっていないこと
- 直近3事業年度において3年連続で資本等の額の20%を超える欠損を生じていないこと
- 禁錮以上の刑または一定の罰金刑に処せられた場合、3年を経過していること
②技術的要件
製造業免許において、販売業免許にはない独自の要件です。
- 醸造・衛生面等の知識があり、一定水準の品質の酒類を継続的に製造・供給できること
- 不測の事態が生じた場合に対応できる能力を有していること
技術的要件は、製造計画・工程、技術者の経歴、品質管理体制、研修体制等から総合的に判断されます。申請者本人に醸造経験がなくても、経験のある技術者を雇用していれば要件を満たせる場合がありますが、申請者自身にも一定の知識・経験があることが求められます。
③設備要件
- 製造・貯蔵に必要な機械・器具・容器等が十分備わっていること
- 製造場の設置が工場立地法、下水道法、水質汚濁防止法、食品衛生法等の法令および地方自治体の条例に抵触していないこと
- 製造場から排水が生じる場合は、水質汚濁防止法に基づく特定施設設置届出書を市区町村に提出していること
④最低製造数量基準
免許を受けた後1年間の製造見込数量が、品目ごとに定められた最低製造数量に達していると見込まれることが必要です。この「見込数量」は、販路の見通し・設備能力・製造計画書の内容をもとに審査されます。
5. 申請から免許取得までの流れ
標準処理期間:約4ヶ月(税務署審査:約2ヶ月+国税局審査:約2ヶ月)
酒類製造業免許の審査は、所轄税務署と国税局の2段階で行われます。販売業免許(税務署のみ・約2ヶ月)より審査期間が長く、必要書類も多い点が特徴です。
申請前の準備(重要)
製造業免許の申請では、以下の書類を事前に準備する必要があります。販売業免許と比べて、製造に関する書類が大幅に増えます。
- 製造計画書(製造する酒類の品目・数量・工程の詳細)
- 品質管理計画書(品質基準・検査方法・衛生管理体制)
- 製造設備の仕様書・図面
- 技術者の経歴書・資格証明書
- 製造場の図面・賃貸借契約書等
- 事業計画書・収支見込み
- 法人の場合:登記簿謄本・定款・決算書等
さらに、以下の書類が求められるケースが多く、実務上は特に重要です。
- 取引承諾書:販売見込み数量の裏付けとして、取引予定先(飲食店・小売店等)から取引の承諾を得た書類。最低製造数量を達成できる販路があることを示すために提出します。
- 原料の見積書:酵母・ホップ・モルト・副原料等、製造に使用する原料の仕入れ見積書。原価計算の根拠資料として求められます。
- タンクスケジュール:複数のタンクをどのように運用して最低製造数量を達成するか、仕込みの回数・サイクル・容量等を示したスケジュール表。数量の実現可能性を示す重要書類です。
- 税務署独自の収支表:税務署によっては独自の様式の収支計画書の記載を求める場合があります(例:山梨税務署)。管轄税務署によって求められる書類が異なることがあるため、事前の確認が必要です。
※必要書類は管轄の税務署によって異なる場合があります。申請前に所轄税務署へ確認するか、行政書士にご相談ください。
申請後の流れ
- 税務署へ申請書を提出
- 税務署による審査(約2ヶ月) 書類の確認・現地調査等が行われます。補正が求められることもあります。
- 国税局による審査(約2ヶ月) 税務署の審査後、国税局に送付されてさらに審査が行われます。
- 免許通知書の交付 審査完了後、所轄税務署において免許通知書が交付されます。申請者の税務署への来署が必要です。
※製造場の開業には、税務署の免許のほかに保健所の営業許可も別途必要です。免許申請と並行して保健所への相談を進めておくことをお勧めします。
6. 免許取得後に必要な手続き
酒類製造業免許を取得した後も、継続的な法定手続きが必要です。見落としがちな点ですので、開業前に把握しておきましょう。
製造開始前の届出
- 製造開始の届出:製造を開始する前に、所轄税務署へ届出が必要です。
定期的な申告・報告
- 酒税の申告・納付:製造した酒類を移出(蔵出し)した月の翌月末までに、酒税を申告・納付します。製造業者は酒税の納税義務者となるため、販売代金の回収よりも先に酒税を納付する必要があります。資金繰りの観点からも重要です。
- 製造数量等の報告:年間の製造数量・移出数量等を税務署に報告します。
- 記帳義務:製造数量・移出数量・在庫数量等を帳簿に記録し、保存する義務があります。
製造場の変更等の手続き
- 製造場の移転・設備の大幅な変更を行う場合は、事前に税務署への申請・届出が必要になる場合があります。
7. よくある質問
Q:クラフトビール醸造所を開業したい。まずビール免許とどちらを取ればいいですか?
A:多くのケースで発泡酒製造業免許からのスタートをお勧めします。ビール製造業免許の最低製造数量は年間60キロリットルと非常に高く、新規開業の小規模醸造所では達成が困難です。発泡酒免許(最低6キロリットル)で開業し、規模拡大後にビール免許を取得するのが一般的な流れです。なお、発泡酒として製造・販売しているクラフトビールは数多くあり、消費者への認知も定着しています。
Q:発泡酒免許で製造したものを「クラフトビール」として販売できますか?
A:「クラフトビール」という表現は法律上の定義があるわけではなく、小規模醸造所で製造したビールスタイルの飲料を指す通称です。発泡酒免許で製造したものでも「クラフトビール」として販売しているブルワリーは多数あります。ただし、ラベルや商品説明に「ビール」と表記することは酒税法上の品目と異なるため注意が必要です。
Q:醸造経験がなくても免許を取得できますか?
A:必要な技術的能力を備えた者を雇用していれば、申請者本人に醸造経験がなくても要件を満たせる場合があります。ただし、申請者自身にも一定の知識・経験があることが求められます。研修の受講や、資格を持つ技術顧問の設置等で対応できるケースもありますので、まずはご相談ください。
Q:テナント物件(賃貸)でも製造免許を取得できますか?
A:可能です。ただし、製造場として使用する権限(賃貸借契約書等)があること、設備の設置が建物の構造や地方条例に抵触しないこと、排水処理等の要件を満たすことが必要です。物件選定の段階から、これらの点を確認しておくことをお勧めします。
Q:製造免許と販売免許は両方必要ですか?
A:製造した酒類をその製造場で直接小売(来訪した消費者への販売)する場合は、別途販売免許は不要です。ただし、インターネット通販や製造場以外の場所での販売、他の酒類を仕入れて販売する場合は、別途販売業免許が必要です。
酒類製造業免許の申請代行については、こちらの申請代行ページをご覧ください。
本記事は、
行政書士・社会保険労務士(酒類製造業免許申請の実務経験16年)
が、実際の申請・相談事例をもとに解説しています。
最終更新日:2026年3月13日
初回公開日:2026年3月13日










